緑の悪霊 第3話


「まずはルルーシュの部屋から調べようね?」

先ほどまで泣きそうな顔をして落ち込んでいたはずのスザクは、顔を上げると向日葵のような明るい笑顔でそう言った。
さっきのは勘違いか?と思うほどの変わり身の速さだった。

「俺の部屋から?」
「うん。じゃあ、僕たち失礼しますね」

スザクは他の面々が着いて来ないよう先手を打つと、ルルーシュの手を掴み足早にその場を後にした。
生徒会の仕事が終わってから体重を量りに来たので、帰るのはいいのだが。

「こーんな面白そうな事、私抜きで進められると思ってるのかしら?」

そして、愛らしく大人しい犬の皮をかぶった猛獣スザクと、愛しの我が君を二人きりにすると本気で思っているのかしら?
去っていく二人の背を見つめながら、ミレイはにっこりと微笑んだ。



スザクが俺の部屋にだと?
その言葉に、ルルーシュは内心焦りまくっていた。
拙い、今日はC.C.が居る。
間違いなく部屋は汚され、ピザの匂いも充満している。
そんな部屋に、スザクが?
これは拙いとルルーシュは、ずんずんと手を引き前を歩くスザクに気付かれなよう携帯を取り出し、後ろ手で開くとせわしなく指を動かした。
C.C.が持っている携帯に、緊急警報を流したのだ。
危険な物は全部持って、部屋から出ていろよ。
部屋が汚いのもピザの匂いもどうにか誤魔化しようがあるが、お前が居るのは拙い。
幸い、保健室は校舎内にあるため、クラブハウスまではそれなりの距離がある。
C.C.が見つかれば何かと面倒だ。
面識が無いならばどうにでもなるのだが、毒ガスのカプセルから出てくる姿を見られている以上、いくら脳筋なスザクでもC.C.を忘れるはずがない。
一番いいのは、悪霊などいないと却下し、部屋へ行くのを止める事なのだ。
だがスザクの親切を無碍には出来ない。
軍務で疲れていて、僅かに出来た時間で学園に通っているスザクが、軍に戻るまでの貴重な時間を俺のために使うというのだ。
感謝こそすれ、拒絶など・・・出来なくはないが難しい。
ならばC.C.を隠し、穏便に事を進め、迅速に終わらせるべきだ。
となれば。

「スザク、もう少しゆっくり歩いてくれないか?」

少しでもスザクの到着を遅らせるため、ルルーシュは掴まれている腕・・・ではなく、いつの間にか繋いでいる状態になっていた手を引いた。
息を切らせた演技・・・ではなく、本当に若干息を切らせ頬を上気させていたため、スザクが慌てて足を止めた。

「ごめんね、早かった?」
「ああ、ちょっとな」

そう言うと、スザクはペースを落とした。

「この程度で疲れるなんて、やっぱり何かに憑かれているんだね」

ぎゅっと、痛いぐらい手を握られ、ルルーシュはハッとなった。
・・・手を握られて・・・だと!?
な、な、なんで男二人で手を繋いで歩いていたんだ!!
まるで迷子にならないよう子供の手を引いているようじゃないか!!
お前は俺の保護者か!俺は手のかかる子供だとでも言いたいのか!
どうにか外そうと手を振ったりしてみるが、がっちりと握り込まれていて無理だった。

「どうしたのルルーシュ?」

キョトンとした顔でスザクが聞いてくる。

「どうしたじゃない、男同士手を繋いで歩くなんておかしいだろう。いいから離せ」
「そうかな?なにもおかしくないよ。僕たち、友達じゃないか」

にっこりとそれはいい笑顔で言われたので、そうか、おかしくないのか。と、一瞬頷きかけて、ハッとなった。

「いや、おかしい!おかしいぞスザク!日本人がどうかは解らないが、少なくてもブリタニアではおかしいんだ!」

友達同士でも幼い子供じゃない限り手を繋いでなんておかしいんだよ!

「ここは日本だよ?ならおかしくないじゃないか」
「日本ではあるが、今はブリタニア領だから基準はブリタニアなんだ。いいから離せ!」

放課後とはいえ、人はまばらにいるのだ。
騒いでいる事もあるが、麗しの副会長と、イレブンでありながら優しい笑顔と人当たりの良さで人気のあるスザクが手をつないで歩いているのだから、視線はがっちりと二人に注がれていた。
枢木スザク!なんてうらやましい!そこ変われ!!
ああ!副会長の手!俺も繋ぎたい!
ルルーシュ君にそんな視線で見つめられたい!
9割型はそんな嫉妬混じりな視線だった。
それに気づいているのはスザク。
気付かないのはルルーシュ。
周りから奇異な目で見られていると思っているルルーシュは、あまりにも恥ずかしくて耳まで赤くし、俯きながらどうにか手を振りほどこうとする。
そんなルルーシュをじっくりと堪能しながらスザクは言った。

「いいじゃないか減るものじゃなし」
「減る!いや、すでに色々減っている!」

俺の矜持的な物とかいろいろ!!
ものすごい勢いでゴリゴリ減ってる!!
顔を真っ赤にして文句を言うルルーシュに、そうかなぁと小首を傾げ、「いや減らないよ?」と言いながら、うん、害虫は減るけどね?と心の中でほくそ笑んでいた。
ああ、でもこんな可愛いルルーシュを見て、良からぬ事を考える馬鹿は増えたかも?まあ、僕が後始末しておくから大丈夫だけどね。
スザクが、にこにこと無邪気な笑顔の裏側で、そんな事を考えているなんてルルーシュは当然のことながら気づいていなかった。

ルルーシュはナナリーを溺愛している。
ナナリーには劣るがスザクも溺愛している。
盲愛と言ってもいい。
ルルーシュの愛情を一身に受けるこの二人には、幾つもの共通点があった。
大きな瞳に幼さの残る甘い顔立ち、柔らかい色合いの髪はふわふわの手触りとくるりとした癖。物腰が柔らかく、その声音も穏やかで温かみがあり、誰にでも愛され、親しまれる優しさに溢れた性格。
ルルーシュの理想の女性がナナリーならば、必然的に理想の男性はスザクとなる。
だがこの二人には、ルルーシュの知らない共通点も存在していた。
それは二重人格と言ってもおかしくないほど、この二人の腹の中がどす黒いという事だった。



「解りました。ありがとうございますミレイさん」

ナナリーは通話を終えると、口元に笑みを乗せた。
そう簡単にお兄様を手に入れられると思わないでくださいね、スザクさん?
時には協力し、ルルーシュの害虫駆除を行う二人だが、ルルーシュを独占するとなると話は別だ。

「咲世子さん、害虫Sが発生いたしました、駆除を手伝ってくれますか?」

電話が終わるのを待ち、お茶を持ってきた咲世子にナナリーはお願いした。

「もちろんでございますナナリー様」

咲世子はニッコリと笑顔で頷いた。

「お兄様は黒の騎士団と学生の二重生活、そして最愛の妹である私の事で手がいっぱいです。これ以上ご負担をかける訳にはいきません」
「存じております」

ルルーシュは気づいていないが、夜中に抜け出すのは恋人が出来たからではとナナリーは速攻で疑った。C.C.の事は明らかに動揺し、否定した兄の言葉で男女の関係でない事は悟ったが、それ以外は調べようがなかった。
もし、兄を自分の手から奪おうという者がいるのなら・・・。
ああ、動かない足と見えない目が恨めしい。
だから咲世子に頼んだのだ。
兄が何をしているのか調べて欲しいと。
戻ってきた咲世子はある秘密を打ち明けてくれた。
咲世子は黒の騎士団の協力者で、騎士団に所属する事を希望していた事。
そして、探った先で、ルルーシュがゼロであることを突き止め、それを報告したのだ。
最初は驚き戸惑った。
あの優しい兄が恐ろしい場所に身を置いているのだ。
泣いて叫んで暴れて、それで兄を止められるのなら止めたいとも考えた。
だが、兄が自分のために優しい世界を作ろうとしているのだとはすぐに悟った。
そして母の仇を探している事、スザクのためにも日本を取り戻そうとしている事も。
ニュースで流れるゼロの声。
兄の声。
揺らぐことのない決意を感じ、ナナリーもまた決意した。
兄が望む世界を作るため、手伝いたいと。
兄が疲れて帰って来たときに、安らげる場所でいたいと。
だから咲世子と共に影から兄をサポートしてきたのだ。
兄に気づかれることなく、秘密裏に。
夜中出歩くときには、咲世子が護衛していることに、兄は気づいていないだろう。
兄の部屋に入り浸るC.C.が、兄に手を出したらすぐに解るようにと、こっそり盗聴器をしかけている事など気付かないだろう。

兄はゼロ。
ゼロはスザクの敵。
スザクはゼロの敵。
ならば。

「私は貴方の敵です」

にっこりと笑顔で宣言された言葉は何処が冷え冷えとしており、その瞳は笑っていなかった。

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